バルブのサイジング「材料と圧力・温度基準」
機器や配管をつなぐ弁
流す、止める、調節する、圧力を保持する。
弁に求められる機能の究極はたったこれだけです。
一見単純に見える弁の機能ですが、この機能を満足させるためは、さまざまな設計考慮が必要となります。なぜなら、接続される機器や配管は数多くの種類があり、それぞれの設計条件も異なるため、弁に要求される条件も異なってくるからです。これらの設計条件は規格化されていますので、それに適合した最適な弁を選定することが重要となります。
弁の用途の例 | 適用される規格 | 弁に要求される条件 |
上下水道 | JIS/JWWA/JWVA/AWWA等 | 汎用性 |
石油化学プラント | JPI/API/高圧ガス等 | 耐火、耐食性 |
ボイラーや圧力容器 | JIS/JEAC/ASME等 | 耐圧、高温特性 |
ボイラーや圧力容器用の配管と弁
ボイラーや圧力容器に設置される配管には内部に高い圧力と温度がかかります。配管の機能としては、これら内部の高い圧力と温度を外部に漏らさない、いわゆる耐圧機能となります。この条件は、プラント内の設置個所によりさまざまとなります。
しかしながら、プラント内には配管や弁は無数に設置され、設計条件毎に設計していたのではコストや納期がかかってしまいます。よって、配管や配管の取り合い部であるフランジや弁には、材料、設計圧力、温度毎に条件を区切って集約し標準化できる規格があります。
パイプsch.10~XXS 等
JIS B2220
呼び圧力5K~63K
ASME B16.5
Class 150~2500
圧力容器用配管の機能が、耐圧機能であるのに対し、弁には耐圧機能に加えて流す、止める、調節するという重要な機能があります。これらの機能はいずれか一方でも損なわれる訳にはいきません。従って弁内部の流路径は配管と同等であっても、その形状は複雑なものとなり、大きなスペースを必要とします。このために配管や弁に高い圧力や温度が負荷される場合、これに関連して弁には各箇所に高い応力が発生します。
弁に「止める」機能が必要とされた場合、たとえ大型であってもシール面には精密さが要求されることになるのです。
以上のことから、ボイラーや圧力容器等の高温高圧条件で使用する弁には、十分強固な構造と、応力に耐えられるだけの材料が必要となります。高温高圧弁に要求される弁の設計規格JEAC3706およびASME B16.34では、弁箱の肉厚決定に当っては、円筒形以外の弁箱形式、局部応力の集中及び弁の開閉に伴う応力、組立によって生ずる応力等を考慮し、配管の肉厚よりも十分厚い肉厚を規定しています。
この肉厚をベースに、材質および圧力クラス毎に使用範囲を規格化したものが圧力・温度基準です。
高温高圧弁の耐圧部材料
鋼種 | 鋳鋼 | 鍛鋼品又は鋼棒 | 配管材 |
炭素鋼 | JIS G 5151 SCPH2 ASME SA216 WCB ASTM A216 WCB |
JIS G 4051 S25C or S28C JIS G 3201 SF440A or SF490A JIS G 3202 SFVC-2A ASME SA105 ASTM A105 |
ASTM A672 C70 or C65 or C60, ASTM A672 B70 or B65 or B60, ASTM A106 C or B, JIS SGP, JIS STPG370, JIS STPG410, JIS STS370, JIS STS410, JIS STS480, JIS STPT370, JIS STPT410, JIS STPT480, JIS STPY400 |
0.5%モリブデン鋼 | JIS G5151 SCPH11 ASME SA217 WC1 ASTM A217 WC1 |
JIS G3203 SFVAF1 ASME SA182 F1 ASTM A182 F1 |
ASTM A691 CM-70 JIS STPA12 |
1%クロム 0.5%モリブデン鋼 |
JIS G5151 SCPH21 ASME SA217 WC6 ASTM A217 WC6 |
JIS G3203 SFVAF11A ASME SA182 F11 ASTM A182 F11 |
ASTM A691 1/2CR or CM-75 or 1 1/4CR or 2 1/4CR or 5CR JIS STPA22 |
2.5%クロム 1%モリブデン鋼 |
JIS G5151 SCPH32 ASME SA217 WC9 ASTM A217 WC9 |
JIS G3203 SFVAF22B ASME SA182 F22 ASTM A182 F22 |
ASTM A335 P22 ASTM A369 FP22 JIS STPA24 |
低温用炭素鋼 | JIS G5152 SCPL1 ASME SA352 LCB ASTM A352 LCB |
― (規定無し) | ASTM A672 B65 or C65 |
18%クロム 8%ニッケル鋼 |
JIS G5121 SCS13A ASME SA351 CF8 ASTM A351 CF8 |
JIS G3214 SUSF304 ASME SA182 F304 ASTM A182 F304 |
ASTM A312 TP304 or TP304H, ASTM A358 304, ASTM A376 TP304 or TP304H, ASTM A430 FP304 or FP304H, JIS SUS304TP, JIS SUS304HTP, JIS SUS304LTP |
18%クロム 9%ニッケル鋼 2%モリブデン鋼 |
JIS G5121 SCS14A ASME SA351 CF8M ASTM A351 CF8M |
JIS G3214 SUSF316 ASME SA182 F316 ASTM A182 F316 |
ASTM A312 TP316 or TP316H, ASTM A358 316, ASTM A376 TP316 or TP316H, ASTM A430 TP316 or TP316H, JIS SUS316TP, JIS SUS316HTP, JIS SUS316LTP |
9%クロム 1%モリブデン バナジウム鋼 |
火SCPH91 ASME SA217 Cl2A ASTM A217 C12A |
火SFVAF28 ASME SA182 F91 ASTM A182 F91 |
火STPA28 ASTM A335 P91 |
レーティング(圧力・温度基準)について
1.レーティングの考え方
バルブを設計する際に、そのバルブが設置される配管を流れる流体の圧力・温度(以後設計圧力・温度と呼ぶ)を考慮して、バルブの肉厚や大きさを決定する必要があります。
しかし、数多くのバルブを設計するに当たり、圧力・温度をその都度考慮するといった設計を行うことは、多種多様となってしまい、集約化が困難となることから、非常に効率が悪いものとなります。
そこで、設計圧力・温度及びバルブの材質について、数種類のグループ(クラスと呼びます)に集約し、設計を行い易くしています。
この考え方をレーティング(圧力・温度基準)と呼び、代表的な規格として「ASME B16.34(Valves-Flanged, Threaded, and Welding End)」やそれに準拠した「JEAC 3706(圧力配管及び弁類規程)」で規定されています。
2.レーティングの区分
JEAC 3706においては、レーティングは設計圧力・温度によって、バルブ材質毎に以下のクラスに区分されます。例として、炭素鋼(JIS SCPH2等)のレーティング表を以下に示します。
又、それぞれのクラスは第1類・第2類に分かれ、第2類は末尾に『-Ⅱ』と表記します。
【クラスの表記例】
クラス1500の第1類 ... 1500
クラス2500の第2類 ... 2500-Ⅱ
尚、第2類を採用するには、規格で定められた非破壊試験が必要となります。
3.レーティングの選定
設計圧力・温度及び材質の条件があれば、レーティングを決定することが出来ます。以下に一例を挙げます。
【例:設計圧力:22 MPa/設計温度:260℃/弁箱材質:SCPH2(炭素鋼)の場合】
②一番左の列に温度が記載されていますので、該当する箇所を確認します。
今回は260℃ですので、250℃と300℃付近を確認します。
③②で確認した箇所で設計圧力が満足出来る(上回らない)部分を表中から探し、そこから表の上部
のクラスを確認します。これで、この条件でのレーティングが決定します。
今回は22 MPaです。
第1類の表だと22MPaはクラス1500及び2000付近であることが分かります。
細かく確認すると、1500では22MPaを下回ってしまい、レーティングを満足していないことが分かり
ます。2000では22MPaを上回り、レーティングを満足することがわかります。
第2類の表を確認すると、22MPaを上回っているクラスは1500であることがわかります。
又、圧力・温度基準表から直に読み取れない場合は、補間法計算にて求める方法もあります。
以上より、今回の条件では、2000又は1500-Ⅱとなります。
クラス2000(第1類)を採用した場合、クラス1500-Ⅱ(第2類)を採用するよりも、弁のサイズは大きくなりますが、非破壊検査の項目は少なくなります。どちらを採用するかは、弁の設置状況(プラント設計)やコスト等の内容を十分に考慮した上で決定する必要があります。